『あ〜あ〜、マイクテスト、マイクテスト。』
『人生に悩み、迷える子羊よ〜。
汝求めよ、さらば与えられん。
門を叩け、さらば開かん。
愛は世界を救う。ラブアンドピース。』
(ん…なんだろうこの声は。これは夢なのかな…)
(どうやら私はスマホの動画を見ながらウトウトしてしまったみたい。)
眠気に襲われながらよくよく耳をすませるとスマホの方から声が聴こえてくる。
パンッパンッッ!!
『うた!早く起きや!レッスン始めんで!』
(まだ騒がしい音声が流れている。とりあえず動画を止めよう。)
わあぁぁぁ!
『スマホからなんかでたっ!!!ヒ?ヒヨコッ!?』
『私は美を司るニューハーフの神様。名前はヘルマプロディートス。』
『へヘルマプロディトゥース?』
『違うで。ヘルマプロディートスや!』
『へヘルマプロディティ…』
『あんた噛みすぎや(汗) ヘルマでええで。』
『ごめんなさい。いきなり出てきたものだからびっくりしちゃって…
ところでヘルマさんは私に一体なんの御用でしょうか?』
『御用も何もあんたが私を呼んだんやろ?』
『へ?』
(どうしよう、さっぱり分からない。
こんな喋るヒヨコを呼んだ覚えもAmazonで注文した記憶も全くないんだけど…)
『昨日の夜、あんたスマホでサイト見てたやろ?』
『ニューハーフの神様ヘルマの~女の子になる為のレッスン講座~覚えてるやんな?』
『そのサイトの【あなたが望む願いごと】の欄にあんたが女の子として生きたいって送ってきたから、わざわざ此処まで来てあげたんやで。』
(そういえば昨日、帰ってきて酔っ払って何気なく眺めていたサイトの中にそんなサイトがあったような、なかったような…)
同僚の女の子に『ウタさんてもっと男らしくした方がモテるんじゃないですか?」と笑いながら言われてしまった。 メンズもののファッション誌を見せられ、髪型こうした方が似合うとか服装こんな風にすれば?とかアドバイスを貰いながら「今度取り入れてみようかな?」なんて嘘をついて、そんな自分にも嫌気がさしてしまった。
どうして男らしくしなきゃいけないんだろう、髪の毛も切りたくないし無理に男を演じることもしたくない。そもそも女性は恋愛対象じゃない!
明日もそんなレクチャーを受けるのかと思うと憂鬱になって、忘れたくて、冷蔵庫にあったお酒を何本か開けた。
酔っぱらいながら、女の子になるための方法を探るため、スマホでネットサーフィンをしていた。
その内に妙に惹かれるサイトがあった。
それが【ニューハーフ神様ヘルマの女の子になる為のレッスン講座】のサイトだったことをおぼろげに思い出してきた。
酔っ払った勢いもあって、そのサイトの中にあった【あなたが望む願いごと】の欄に、昔からの夢である「女の子として、生きたい」という願いを書き込んで送ったのだ。まさか、それが本当に届くなんて…。
『それはそうと、あんた女装して加工した写メをTwitterにあげるだけでええの?』
『え!! 何でそんなこと知ってるんですか!?』
『うちはなんでも知ってるで。一応神様やし。ここ最近スマホの中からずっと見てたわ。何枚撮ってんねんってツッコミたくなるくらいアホほど自撮りしてる上に、めっちゃ修正もしてるやん?』
『恥ずかしいから事細かく説明するの辞めてください!!』
『本来の自分の姿を鏡で見てみぃ?今の自分に自信をもてへんからって盛った写メ載せて、知らない誰かからいいね押してもらって、それで満足してるだけでええのん?』
(ズケズケと痛いところつっついてくる)
『それだけでも自尊心を満たすことが出来るかもしれないけれど、あんたはこのままでもいいの?いいんやったら別の娘のところに行くわ。』
『…………………』
・
・
・
・
プゥ〜〜〜!!
『えっ!!?』
『この人、今オナラした!?』
(なんでこの人、自分の鼻を押さえてるの?まさかあわよくば私のせいにしようとしてる!?)
(この人本当に神様なのかな。どうみても怪しい…)
(でも…確かにこの人の言うとおり、このままではいたくない…)
髪の毛をのばしたかったし、スカートもはきたかった。
子ども心に「私は女の子だ」ということを口にしてはならない認識もしていた。
私が本音を言うと親や周りにいる大人を困らせる。
友達にも嫌われたくない。
だから、みんなに合わせて男らしくすることばかりをすすんでやってきた。
せめて一人でいる時だけでも女の子でいられたらいい。 そう思っていたけれど、根底にある想いが少しずつ溢れてきて、ネット上だけでもいいから自分という人間を認めて欲しくなったんだ。
変われるものなら本当は変わりたい…出来るなら女の子の格好のまま外へでたい。
『………。』
『変われるものなら…変わりたい…です…』
『なんやそれ!?自分そうゆう煮えきらんところがあかんねんで!
さっきも屁して知らんぷりしてるし!』
『オナラしたのはあなたでしょ!』
(…やっぱり私のせいにするつもりだ)
『うちが見た目だけではなく一流の女に育てたるわ!でもその変わり最後まで諦めたらあかんで!諦めたらもう二度と女になれへん身体になるからね!』
『ええ!?そんなの聞いてないです。』
(あ…でもここで断ったら今までと一緒で何も変わらないのかも)
『や…やってみます。あと私の名前は“あんた”じゃなく“うた”です!』
『桂歌丸の“うた”ね。』
『変な覚え方しないで下さい!』
『じゃぁ明日から女の子として生きるためのレッスンを始めるわよ、うた。』
『ちなみに成功したら焼肉ごちそうしてや!』
『理想の女の子になれるならいいですよ♪』
『あと、すき焼きとしゃぶしゃぶとステーキと…』
『食べ過ぎですよ!!』
『でも、ご飯をごちそうするくらいで私のお願いを聞いてもらってもいいんですか?』
『おっさんて高校野球好きやろ?長いこと生きてるとな、若い子が頑張ってる姿を見るのが楽しみになんねん。』
『そうなんですね。私にはよく分からないけれど…』
『そういえば、これヘルマさんですか?』
『そうよこれ綺麗に撮れてるでしょ♪』
私は猛烈に不安になりながらも、ヘルマさんからレッスンを受けることにした。
難易度
『ほんの少しの勇気をもつ。』
戸籍上男性から女性にステップを踏んでいく過程で必ず必要となってくるのが一歩を踏みだす「勇気」です。
女性服や下着を買うためにレディースコーナーに入ることも、女性らしく髪の毛を伸ばしてヘアスタイルを変えたり、化粧品を用意してメイクをすることも「勇気」が必要です。
今までに経験がないために、躊躇してしまったり恥じらいが消せなかったりして、心の奥底から女性になることを望んでいるのに「男の子だから女の子になれる筈もない…」と自分自身で歯止めを掛けてしまいます。
小さいころから協調性を重んじてきた人にとっては一般常識から外れたことをするので周りから変態扱いされるのが怖いと感じる方もいらっしゃるかも知れません。
ただ、殆どのGID(性同一性障害)の方は同じところで悩んだり躓きながらも勇気を持って乗り越えることで女性らしい容姿を手に入れています。
そしてその勇気は大きいものではなく小さな勇気の積み重ねであることに気付いていくことでしょう。
「美は一日にしてならず」という言葉があるように、女性らしくなっていくためには女性として生きる時間を増やしてキレイになる習慣を日常化させていきましょう。一度きりしかない人生なので自分がなりたい自分になっていく勇気をほんの少しでも持って行動にうつしてみましょう。
今日から女の子になっていくために
ヘルマのレッスンを少しづつ実行してもらうことになります。
これからのレッスンは、
ヘルマの言う通りそれほど難しいものではありません。
しかし、あなたの人生を
大きく変えるほどの効果を持つものです。
これらのレッスンは人によっては簡単だったり、
難しいものだったりするかもしれません。
それでも出来ることから
少しづつでも実行してみてください。
今までの生活から一変し本来の自分を取り戻すことができます。
さあ、
それでは大きく深呼吸して、
より女性らしくなるためにヘルマのレッスンをこなしましょう。